マザリー産科婦人科医院は島根県松江市にある産科婦人科医院です。助産師外来や院内助産システムを積極的に行い、妊娠中から出産、産褥までトータルでサポートいたします。気になる事や心配な事などお気軽にご相談ください

母親へ、子育てのメッセージを


りれー随筆 312: 助産雑誌 Vol.64 2010 Dcenber(2010 年 12 月号) 1138-1139 より

産婦人科開業で訪れた転機

私は、病院に勤務をした後、結婚と同時に専業主婦になり、一男一女を出産して、育児にとっぷりと浸かっていました。当時は、助産師の資格を持って子育てができて、なんだか得しているなあ、と思ったものでした。

1993 年、転機が訪れました。産婦人科医師の夫が開業することになり、私は助産師として現場復帰することになりました。開業前、夫婦で互いの理想を語り合いました。私は自分自身の出産を振り返り、次のようなことを話しました。出産の時、先輩助産師が分娩第 1 期からずっと腰をマッサージしてくれたことが心強く、今も忘れられないこと。新生児室に収容されたわが子に初回授乳で会うまでの時間が本当に長かったこと。第 2 子は自宅で産んでみたかったが、夫の説得で諦めたこと。せめて長男を立ち会わせたかったけれど大学病院では叶わず、入院中、息子のことが心配でたまらなかったこと。そうした私自身の経験を踏まえて、可能な限り産婦の願いに近づけるようにと考えました。
また、病院勤務時代、忙しい時期に出産となった産婦には産後の指導が十分にできず、産婦にとって不公平だと感じていたので、助産師は可能な限り確保したいと思いました。家庭的な雰囲気を保ちつつも、緊急時の対応もある程度はできるよう、病院の産科と同程度の体制は必要だという考えで、環境を整えていきました。


時代の流れとともに変化する支援の形

一方、出産はゴールではなく育児のスタートと考え、母親教室にも育児の内容を入れたり、1 か月健診を終えてからも産後教室を開催するなどして、母児と継続してかかわるようにしました。また母親の児に対する愛着形成の面からも、母乳育児をできるだけ続けられるよう、退院後のフォローにも力を入れました。

しかし、「育児ノイローゼ」「孤独な育児」「乳幼児虐待」「不登校」などがメディアで取り上げられるようになり、子育てへのマイナスイメージが増え、若い母親は子育てに対し構えているように感じていました。そこで、母親同士の交流で楽しいイメージが与えられるかもしれない、孤独な母親を少しでも楽にしてあげたい、との思いから、育児サークル「プスプス倶楽部」が誕生しました。
子育て中の母親なら誰でも参加できますが、あくまで子育て優先で、自主的に活動する会としました。子連れでの活動としたため、会のたびにお互いの子どもの成長を見ることができ、先輩ママに相談もできて、母親たちも楽しく活動をしているようでした。多いときには 500 名余りの会員のいる大きな会となりました。

しかし、時代の流れでしょうか。役員の世代交代を経て、徐々に行事に負担を感じる母親が増えてきて、サークル活動は機関紙の作成が中心となりました。また、参加はするものの、自ら企画することは難しいという母親が多くなり、2003 年には活動休止となりました。その頃、自治体の子育て支援も充実してきており、公民館や子育て支援センターなどで情報が得られ、相談もでき、イベントなどに参加できる時代に変わっていました。ちょうどプスプス倶楽部の役目も終わる時期だったのかもしれません。
そこで、私たちは、育児サークルに代わる方法で母親にメッセージを送ることができないかを考えました。働く母親への支援は徐々に進んでいましたが、フルタイムマザーへの支援は注目されていませんでした。堂々とフルタイムマザーをして欲しい。育児を少しでも楽しんで欲しい。365 日 24 時間の子育てを大事な仕事と認めて欲しい。日本の未来を担う子どもを育てるすばらしい仕事であることを伝えたい、との思いが強まり、2001 年「いっしょに子育て研究所」を立ち上げました。
老若男女を問わず、結婚、妊娠、出産、子育て (乳幼児~思春期)、成人、更年期、老年期など、さまざまなことを一緒に考えていけたら、という理想を掲げて、研究所はスタートしました。あらゆる方面に手を出していくことで、どこかで何かメッセージが届けばいいかなと思い、現在も活動を続けています。

現在の活動の 1 例を紹介しましょう。たとえば、母乳育児も、助産師が側にいれば続けられるのに、と思うことがたびたびあります。
開院して 2 年目頃、産後訪問では分泌も多く飲み過ぎるくらいに飲ませていた母親が、1 か月健診時にはミルクを足していたことがありました。母親がミルクを足した理由は、実母からの助言でした。毎日「足りないから泣いているのよ、ミルクを飲ませたら」と言われれば、育児が初めての母親はミルクを足すのではないでしょうか。そして、母乳が足りていても赤ちゃんはミルクを飲むので、やっぱり足りなかったのだと母親は誤解します。それに私たちが目くじらを立て「ダメ」と言ったら、母親は混乱します。「不安ならいつでも相談に来て」と日頃から手を広げていても、こういったことは数多くあるのだと痛感しました。
そこで私たちは、「いかに母乳だけで足りていて、安心であることが多いか、できる限りメッセージは送り続けよう。そして次の世代になって母乳が当たり前のように飲まれることを期待しよう」と思うようになりました。現在マザリーでは、母乳がメインではなく育児の中の 1 つと捉え、母親が肩肘張らずに安心して、気持ちよく赤ちゃんに母乳を飲ませられることが一番だと考えています。母乳に限らず、すべてにおいて、手を広げ、けれど押しつけず、環境や母親の性格に寄り添った支援ができればと思っています。
私は、助産師として決して変わったことをしているとも、立派に子育てをしたとも思っていません。ただ、助産師としての知識と子育ての経験で得た楽ちん子育てについて、母親たちに伝える機会をいただいているのだと思っています。自由にやりたいことができる恵まれた環境、それを見守ってくれる家族、共に働くスタッフに心から感謝しています。

渋川 あゆみ
マザリー産科婦人科医院
いっしょに子育て研究所 所長